※本記事は、公式サイト・出版社・ニュースサイトで公開されている情報をもとにまとめています。推測にあたる部分は、その旨を書いています。
『花より男子』は全37巻、単行本発行部数6100万部。少女マンガとして桁外れの数字を残した作品です。ただ、作者の神尾葉子さんが語る連載後の状態は、そのイメージとはかけ離れていました。「干物みたいになっていた時期だったんです」。そして続編『花のち晴れ』が生まれたのは、連載当時に編集長から言われた「あなたは、このマンガを島にしなさい」という一言があったからでした。この記事では、神尾さんのインタビューからこの作品の設計と、その後を読み解きます。
📘 この記事でわかること
- 編集長に言われた「このマンガを島にしなさい」という言葉の意味
- 「花男」終了後、作者が「干物みたいになっていた」と語る時期があったこと
- カッコいい男子の定義は「行動がカッコいい子」。その元になった実体験
- 作者自身が「描き残した」と考えていたもの
- 全37巻・6100万部という確認できるデータ
- 作者が語っていないことと、読者の解釈の境目
📈 数字で見る花より男子
花より男子を読み解く3つの鍵
🔑 作者が語った設計と、その後
- 男子の魅力は「行動」で作られている。神尾さんは「私がカッコよさを読者に訴えるのなら、行動がカッコいい子にしよう、と思っていました。『こういうとき』に、ちゃんと『こういう行動』が起こせる子」と語っています。見た目ではありません。
- 作者は自作の男子に「キャラ萌え」しない。「今まで『F4の中で好きなのは誰ですか』とか何度も聞かれてきたんですが、自分のマンガの男の子にキャラ萌えすることはなくて(笑)」。設計として作られたキャラクターです。
- 「花男」は終わらせずに「島」にされた。連載当時の編集長から「あなたは、このマンガを島にしなさい」「別のところに遊びに行って、またこの島に帰って来なさい」と言われたことが、20年以上あとの続編につながりました。
以下の引用は、コミックナタリーの「マーガレットコミックス特集 〜あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言〜」第3回、神尾葉子インタビュー(2016年1月)からです。
花より男子の作者が語ったこと
神尾葉子さんが作品について語った記録のなかで、まとまった内容が読めるのがこのインタビューです。続編『花のち晴れ』の連載が始まって間もない時期のもので、『花男』本編についてもかなり踏み込んで振り返っています。
以下はそこからの引用です。
「このマンガを島にしなさい」
神尾さんは『花男』について「描くことで私自身もがっかりするのが嫌なんですよ。それくらい『花男』を大事に大事にしてきました」と語ったことがあり、「もう『花男』は描かない、と思っていた時期もあった」といいます。
それでも続編を描くことになった背景に、連載当時の編集長の言葉がありました。
「あなたは、このマンガを島にしなさい」
神尾さんはこう続けます。「終わらせてしまうのではなくて、『別のところに遊びに行って、またこの島に帰って来なさい』と。そう言われたのが10何年前のことだったと思うんですが、そろそろその島に船を出してもいい頃かなと思いました」。
作品を「完結させるもの」ではなく「戻ってこられる場所」として設計する——という発想です。『花のち晴れ』が本編の2年後という近い時間軸に設定されたのも、この考え方と地続きに見えます。神尾さんは「誰かと誰かが結婚している、というようなことが、過去形で出てこないようにしたくて」と説明しています。
連載後、「干物みたいになっていた」
12年の連載を終えたあと、神尾さんがどういう状態だったのか。次作『キャットストリート』を読み返したときの感想として語られています。
「「花男」が終わったばかりで、クタクタになりながら描いた作品で。ちょっと抜け殻というか……干物みたいになっていた時期だったんです」
「その後も、しばらく『花男』が終わった脱力感をひきずっていて……ようやくここ最近、元気になってきたんですよ。だから今回『花晴れ』が描けるようになったのかもしれませんね。『花男』のシリーズは、私が元気じゃないと描けないものなんだと思います」。
続編の話が来る前は「何カ月かブラブラしていて、これからどうやって生きていこうかなあ、と考えていました」とも。「これから何を描こうか」ではなく「どうやって生きていこうか」だった、という言い方です。そこで「描き残したものがあるとしたらなんだろう、と考えてみたら……やっぱり『花男』だったんですよね」。
カッコいい男子とは「行動がカッコいい子」
F4というキャラクター群がなぜ機能したのか。神尾さんの定義ははっきりしています。新人の頃、編集者から「男の子がカッコよければ、そのマンガは70%大丈夫だ」と言われたという前置きもありました。
「私がカッコよさを読者に訴えるのなら、行動がカッコいい子にしよう、と思っていました。「こういうとき」に、ちゃんと「こういう行動」が起こせる子」
その元になった実体験も語られています。『花男』を描き始めた頃、女友達と3人で電車に乗っていておじさんにからまれたとき、「車両の隅っこにいた、ものすごくたくさんピアスをつけて髪の毛を立てた、一見怖そうな男の子が向こうから走ってきて。おじさんを蹴散らしてくれたんですよ。『やめろよ、嫌がってんだろ!』って!」。
お礼を言うと「その男の子の顔が真っ赤になって。『……いえ』ってぶっきらぼうに言いながら、つり革につかまって……」。見た目は怖いが行動が正しい——道明寺司という人物の骨格が、ここに見えます。神尾さんは「意外性というのもいいと思うんですよ。そんなことをするタイプではないのにしてくれた、とか」とも述べています。
「描き残した」と思っていたのは恋愛の外側
続編を描くにあたり『花男』を読み返した神尾さんは、「もう少しこうすればよかったとか、ここまで描けばよかったとかいろいろと思うところ」があったといいます。何が足りなかったのか。
「少女マンガ誌の連載ということもあって、恋愛に特化した話だったんですが、もうちょっと違うところを描いてもよかったなと。英徳学園のこともそうですし、他校の生徒とのことが出てきてもよかった」
そのうえで「もちろん、『花男』は道明寺とつくしの恋愛を描いていたからこそよかったんだ、とも思ってはいる」と補足しています。
読み返したときの印象も残しています。「連載中は本当に荒波にもまれていたというか、必死だったのでよく覚えていないんですが、離れてみると、すごく私が楽しんで描いていたことがわかって。登場人物が楽しそうなんですよね。これを、私が描いたんだなあ……と」。
「つくしって、たぶん男性読者に受けが悪かった」
続編のヒロイン・江戸川音を作るときの考え方を語る流れで、本編のヒロインについての自己分析が出てきます。
「つくしって、たぶん男性読者に受けが悪かったと思うんですよ(笑)」
続けて「なので今回も本当は、見た目がすごくかわいい女の子がいたらいいのかなあと思ってはいたんですけど……私はそういう女の子を描くのが得意じゃなくて。やっぱり普通の女の子になりました」。
つくしと音の違いも説明されています。「つくしは裏表のない、堂々と構えた子でしたが、音には弱さがあります」。牧野つくしという主人公が「弱さを見せない」造形だったことを、作者自身が20年後に言語化している場面です。
花より男子の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 花より男子 |
| 作者 | 神尾葉子。6月29日東京都生まれ |
| 掲載誌 | マーガレット(集英社) |
| 連載期間 | 1992年から12年間 |
| 巻数 | 全37巻 |
| 発行部数 | 単行本発行部数6100万部超 |
| 受賞 | 第41回小学館漫画賞 |
| ギネス世界記録 | 最も多く発行された単一作者による少女コミックシリーズとして認定された |
| デビュー | 1986年、ザ マーガレットの「はたちのままで待ってる」 |
| 続編 | 『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』2015年2月から少年ジャンプ+で連載。最終巻は2020年3月4日発売 |
| ほかの連載作 | 別冊マーガレット(集英社)で『キャットストリート』『虎と狼』『いばらの冠』 |
| メディアミックス | TVアニメ、小説、台湾での実写ドラマ化など。2016年1月には『花より男子 The Musical』が東京・シアタークリエで開幕。2021年12月18日にはタイ版『F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS』がタイと日本で放送開始 |
続編『花のち晴れ』で作者が変えたこと
続編は少女マンガ誌ではなく、少年ジャンプ+というWEB媒体で連載されました。読者層が変わったことで、作り方も変わっています。
以下も同じインタビューからの引用です。本編との作り方の違いがはっきり語られています。
| 変えた点 | 作者の説明 |
|---|---|
| 主人公の造形 | 「カッコよくて完全無欠な、少女マンガに出てくるような男の子ではダメかなと思ったんですね。男性読者の方にも感情移入できるような主人公でなくちゃいけない。でも女性読者もカッコ悪いとは思わない主人公でなくちゃいけない」 |
| モノローグ | 主人公とヒロインの両方のモノローグを入れた。「これは初めての試みですね」 |
| その理由 | 「女性読者の場合は、雰囲気で話を進めてもその下に潜んでいるものを汲み取ってくれる感じがあって。でも男性読者向けの場合は、特に気持ちの部分はちゃんと言葉にしないといけないかなと」 |
| ヒロイン | 「つくしは裏表のない、堂々と構えた子でしたが、音には弱さがあります」 |
| 時間設定 | F4の卒業から2年後。「誰かと誰かが結婚している、というようなことが、過去形で出てこないようにしたくて」 |
| 作画 | 前作『いばらの冠』はデジタルだったが、続編ではアナログに戻した。「ペン入れの時のスピードはアナログのほうが速い」 |
とくにモノローグを2人分入れたという点は、少女マンガの文法を意識的に崩した選択です。「相手の気持ちがわからなくて、いきなり行動に移してくれることでときめく」のが少女マンガの型だと神尾さん自身が説明したうえで、「読者の方たちが『女の子が何を考えているのかわからないから』と読むのをやめてしまわないように」と理由を述べています。
作画をアナログに戻した理由も具体的です。「デジタルだと液タブに直接描くんですが、ペン先と絵の間に1枚、何かが挟まっているような感覚がある」。
作者が影響を公言している少女マンガ
F4という男性キャラクター群がどこから来たのか。作者が名前を挙げた作家を並べます。
同じインタビューで挙げられた作品です。
| 作家・作品 | 語られた内容 |
|---|---|
| くらもちふさこ | 「私は高校生の時に別マに投稿したんですが、きっかけはくらもちふさこ先生が描いていらしたからなんです」。とくに『いつもポケットにショパン』。「くらもち先生のようなマンガを描きたいと思っていました。憧れの先生です」 |
| くらもち作品の何が | 「男の子が色っぽいところですね。男の子の背中のラインとか、手の甲とか……ただ足が長いとかそういうのではなくて、体の描き方が肉感的と言うかセクシーというか」 |
| 岩館真理子 | 『ふくれっつらのプリンセス』が「大好きでした。私にとって、宝物のような作品」。デビュー1〜2年目にアシスタントに入ったこともある |
| いくえみ綾 | 「大好きです。やっぱり男の子がカッコいいですよね」。『POPS』『潔く柔く』を挙げている |
| 河原和音 | 「大好きです! 常にキャッチーなお話を考えていらっしゃいますよね」 |
| やまもり三香 | 『椿町ロンリープラネット』『ひるなかの流星』を挙げている |
挙がった名前に共通するのは「男の子がカッコいい」作家です。そして神尾さんが評価しているのは顔立ちではなく、「背中のライン」「手の甲」といった体の描き方でした。F4の造形が「行動」と「身体」の両方で作られているとしたら、その源流はここにあります。
まだ分かっていないこと(ここから先は推測です)
ここから先は、作者の発言では確認できていない内容です。筆者の読み取りとしてお読みください。
「今でも刺さる」のはなぜか
連載開始から30年以上が経ち、台湾・韓国・タイなど各国でドラマ化されました。作者がその理由を分析した一次情報には、本記事の調査範囲でたどり着けませんでした。
手がかりになるのは「行動がカッコいい子」という設計だと筆者は考えています。ファッションや価値観は古びても、「こういうときにこう動く」という行動は古びにくい。各国でリメイクが成立しているのも、翻訳されるのが行動だからではないか——というのが筆者の読みです。ただしこれは解釈です。
「島」にはまた船が出るのか
続編『花のち晴れ』は2019年に連載を終え、最終15巻が2020年3月4日に発売されました(神尾葉子 公式サイト)。編集長の「別のところに遊びに行って、またこの島に帰って来なさい」という言葉に従うなら、三度目もありえます。
ただし神尾さんは「『花男』のシリーズは、私が元気じゃないと描けないものなんだと思います」とも語っています。体力と気力が揃ったときにだけ開く島だということです。予定は示されていません。
つくしをどう評価するか
作者自身が「つくしって、たぶん男性読者に受けが悪かったと思うんですよ(笑)」「裏表のない、堂々と構えた子」と振り返っています。
受けが悪かったかどうかは別として、弱さを見せない主人公という造形は、いまの少女マンガの潮流とは異なります。続編のヒロインに「弱さ」を持たせたのは、その自覚のうえでの選択に見えます。とはいえ作者がそう説明したわけではありません。
どこで読める?
紙のコミックスはマーガレットコミックス(集英社)から全37巻が刊行されています。完結済みなので全巻セットでも手に入ります。
電子版は主要な電子書店で配信されています。続編『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』は少年ジャンプ+で連載され、最終巻は2020年3月4日に発売されました。
アニメ、実写ドラマ、ミュージカルなど映像化・舞台化も多数あります。台湾版に加え、タイ版『F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS』も2021年12月18日にタイと日本で放送が始まりました(神尾葉子 公式サイト)。
よくある質問
花より男子は何巻まで?
全37巻です。1992年からマーガレット(集英社)で12年間連載され、単行本発行部数は6100万部を超えています。
続編はある?
あります。『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』が2015年2月から少年ジャンプ+で連載され、最終巻は2020年3月4日に発売されました。F4の卒業から2年後の英徳学園が舞台です。
なぜ続編が生まれた?
連載当時の編集長に「あなたは、このマンガを島にしなさい」「別のところに遊びに行って、またこの島に帰って来なさい」と言われていたことがきっかけです。作者は「そろそろその島に船を出してもいい頃かなと思いました」と語っています。
F4のカッコよさはどう設計された?
作者は「行動がカッコいい子にしよう、と思っていました。『こういうとき』に、ちゃんと『こういう行動』が起こせる子」と説明しています。見た目ではなく行動が基準です。
作者はF4の誰が好き?
「自分のマンガの男の子にキャラ萌えすることはなくて(笑)」と語っています。読者からよく聞かれる質問だそうです。
どんな評価を受けた作品?
第41回小学館漫画賞を受賞し、最も多く発行された単一作者による少女コミックシリーズとしてギネス世界記録に認定されています。
まとめ
『花より男子』全37巻、6100万部。その作者・神尾葉子さんが語る連載後の状態は「干物みたいになっていた時期」でした。続編の話が来る前は「これからどうやって生きていこうかなあ、と考えていました」とも。それでも『花のち晴れ』が生まれたのは、連載当時の編集長に「あなたは、このマンガを島にしなさい」「別のところに遊びに行って、またこの島に帰って来なさい」と言われていたからです。そしてF4のカッコよさの設計は明快でした。「行動がカッコいい子にしよう」。その元になったのは、電車でからまれたときに助けに来てくれた、ピアスだらけの見た目が怖い男の子の実体験でした。お礼を言われて顔を真っ赤にしたという、その人です。
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出典
- コミックナタリー マーガレットコミックス特集 第3回 神尾葉子インタビュー(2016年1月)
- 同 2ページ目(男子の描き方・影響を受けた作家)
- 同 3ページ目(「このマンガを島にしなさい」・連載後の脱力感)
- コミックナタリー「『花より男子』ギネス世界記録、最も多く発行された単一作者による少女コミックシリーズに」
引用は出典を明記したうえで必要な範囲にとどめています。本記事では作品の画像を使用していません。©神尾葉子/集英社
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